幻想夜話/23 [過去の創作ノートから]
親戚の、私は会ったことはないけど、とても綺麗なお姉さんのことを
親戚の家に集まっていたときに聞いたことがありました。
そのお姉さんは日ごろから物静かで、とてもやさしい性格の人だったとか。
でも、長い入院生活の末に若くして亡くなってしまったらしいんです。
そのお姉さんが亡くなった日、
その日の夜も私が親戚の家に集まっていた時のように、
何人かが集まっていたそうです。
「〇〇ちゃん、どうしてるんかなぁ、もうだいぶ長いやろう。」
「ほんまやなあ・・・」
すると、玄関の方で声がして
「お姉さん、すみません・・・。」
それは入院しているはずの、あのお姉さんの声だったそうです。
「なんや、もうようなったんか。」
「あがっておいで。」
親戚が声をかけても、いっこうに入ってこないのでヘンに思っているところへ
お姉さんが亡くなったという電話が。
玄関への引き戸を開けると、そこには誰もいなかったそうです。
その時の出来事について、親戚のみんなは怖いとかそういうのではなく
「ああ、ずっと話も出来なかったから、来てくれたんやね。」と
不思議とあたたかい気持ちになったといいます。
また、別の親戚にはお姉さんから電話があったそうです。
お姉さんはずっと寝たきりで、親戚に言いたいことも言えないまま逝ってしまったので
ひとこと、なにか伝えたかったのかも知れませんね。
今回は、その時のエピソードからインスピレーションを頂きつつ
ちょっと怖い感じになっています(笑)。
今となっては死にまつわるエピソードも、血の通った近い縁の者同士の間では
単に怖いとか、そういうのはでなく、もっと自然で温かいもののように思えます。
+++
背後で着信音が鳴って、思わずドキリとする。
夜更け過ぎの地下鉄、プラットホーム。
「…姉さん、どうしたんです?こんなところで。」
振り返ると、数ケ月は顔を合わせていなかった僕の姉が立っていた。
「あら、どうもしないわよ。それよりも、めずらしいのね、あなたから電話してくるなんて。」
「あ…。」
仕事が忙しいからと、僕はここ最近姉と会っていなかった。
以前は、よくいっしょに食事くらいはしたものだった。
「いえ、何だか急に気になったものですから。最近、どうしてるんです?」
僕はズボンのポケットから、ハンカチを取り出しながらそう切り出す。不思議なのだ。ここはとても寒いのに、さっきから汗が吹き出してくる。
「おかしな人ね。」
肩をすくめて、楽しそうに笑う姉。長い髪が青白い横顔にかかって揺れている。
「僕、この駅で乗り換えなんですよ。まあ、遅い時間だから、あまりまともな店は開いてませんけど、軽く飯でも食いませんか?」
反対側のホームに、静かに電車が滑り込む。
風に舞い上がる黒髪。
「それより私、のどが渇いてるの。」
姉はそう言うと、うつむいた。
…彼女のクセだった。いつも自分のワガママを通すときには、決まってこうして黙り込む。
「だから。飯どうです?行きつけの店が、ここから2駅先にあるんですよ。安くてうま…」
僕が言い終わる前に、姉の手が僕の腕をギュッとつかんだ。
その思いがけない強さに僕は驚いて、姉の顔を覗き込む。
「お願い。のどがかわいているの。」
僕はやれやれれと首をふる。
子どものころから、こうして僕は彼女の望みを叶えて来た気がする。普段は気丈な人なのに、何か困ったことがあったり、悲しいことがあると、こうして子どもみたいなことを言う。
「わかりましたよ。ホームの先に、自販機があったはずです。何か買って来ましょう。」
改札口へ続く階段の上から、人の声がする。誰かが降りて来るのだろう。
「で、何にします?コーヒー?それとも…」
振り返ると、誰もいなかった。
上着のポケットで、着信音が鳴りはじめる。
+++
親戚の家に集まっていたときに聞いたことがありました。
そのお姉さんは日ごろから物静かで、とてもやさしい性格の人だったとか。
でも、長い入院生活の末に若くして亡くなってしまったらしいんです。
そのお姉さんが亡くなった日、
その日の夜も私が親戚の家に集まっていた時のように、
何人かが集まっていたそうです。
「〇〇ちゃん、どうしてるんかなぁ、もうだいぶ長いやろう。」
「ほんまやなあ・・・」
すると、玄関の方で声がして
「お姉さん、すみません・・・。」
それは入院しているはずの、あのお姉さんの声だったそうです。
「なんや、もうようなったんか。」
「あがっておいで。」
親戚が声をかけても、いっこうに入ってこないのでヘンに思っているところへ
お姉さんが亡くなったという電話が。
玄関への引き戸を開けると、そこには誰もいなかったそうです。
その時の出来事について、親戚のみんなは怖いとかそういうのではなく
「ああ、ずっと話も出来なかったから、来てくれたんやね。」と
不思議とあたたかい気持ちになったといいます。
また、別の親戚にはお姉さんから電話があったそうです。
お姉さんはずっと寝たきりで、親戚に言いたいことも言えないまま逝ってしまったので
ひとこと、なにか伝えたかったのかも知れませんね。
今回は、その時のエピソードからインスピレーションを頂きつつ
ちょっと怖い感じになっています(笑)。
今となっては死にまつわるエピソードも、血の通った近い縁の者同士の間では
単に怖いとか、そういうのはでなく、もっと自然で温かいもののように思えます。
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背後で着信音が鳴って、思わずドキリとする。
夜更け過ぎの地下鉄、プラットホーム。
「…姉さん、どうしたんです?こんなところで。」
振り返ると、数ケ月は顔を合わせていなかった僕の姉が立っていた。
「あら、どうもしないわよ。それよりも、めずらしいのね、あなたから電話してくるなんて。」
「あ…。」
仕事が忙しいからと、僕はここ最近姉と会っていなかった。
以前は、よくいっしょに食事くらいはしたものだった。
「いえ、何だか急に気になったものですから。最近、どうしてるんです?」
僕はズボンのポケットから、ハンカチを取り出しながらそう切り出す。不思議なのだ。ここはとても寒いのに、さっきから汗が吹き出してくる。
「おかしな人ね。」
肩をすくめて、楽しそうに笑う姉。長い髪が青白い横顔にかかって揺れている。
「僕、この駅で乗り換えなんですよ。まあ、遅い時間だから、あまりまともな店は開いてませんけど、軽く飯でも食いませんか?」
反対側のホームに、静かに電車が滑り込む。
風に舞い上がる黒髪。
「それより私、のどが渇いてるの。」
姉はそう言うと、うつむいた。
…彼女のクセだった。いつも自分のワガママを通すときには、決まってこうして黙り込む。
「だから。飯どうです?行きつけの店が、ここから2駅先にあるんですよ。安くてうま…」
僕が言い終わる前に、姉の手が僕の腕をギュッとつかんだ。
その思いがけない強さに僕は驚いて、姉の顔を覗き込む。
「お願い。のどがかわいているの。」
僕はやれやれれと首をふる。
子どものころから、こうして僕は彼女の望みを叶えて来た気がする。普段は気丈な人なのに、何か困ったことがあったり、悲しいことがあると、こうして子どもみたいなことを言う。
「わかりましたよ。ホームの先に、自販機があったはずです。何か買って来ましょう。」
改札口へ続く階段の上から、人の声がする。誰かが降りて来るのだろう。
「で、何にします?コーヒー?それとも…」
振り返ると、誰もいなかった。
上着のポケットで、着信音が鳴りはじめる。
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