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幻想夜話:21 [過去の創作ノートから]

キッチンにいると割と現実的なことしか考えないのですが
今回の物語はそうじゃなさそう。

自分で描いたものながら怖いです(笑)。

人は自分であっても過去と現在では他人なのかも知れません。
そう考えれば、いつかの未来の私も
今の私じゃないんでしょうか。

細胞さえ、3か月ですべて再生されるんですものね。



+++

「とけたいの。」
 
 キッチンのコンロの前で、あの子は言ったよ。
 だから、僕は聞いたんだ。

 「いつ?」

 泣きそうな顔で、あの子は答えた。

 「ばかね。今すぐに決まってる。」



 グラニュー糖に、バターを溶かして焦げ付かないように用心深く。
 好みでほんの少し、シェリー酒を垂らしてもいい。
 目的なんてないさ。
 部屋には甘い香り。


 「世の中には、甘いものと甘くないもの、2種類しかないわ。」

 あの子は、湯気のたったカップを両手で包んでつぶやいた。
 僕はポットにお湯をたしながら、うなずいた。

 「だけど、甘いものばかりじゃ、虫歯になるよ。虫歯は痛いもの。」

 クスッと小さな笑い声。

 「私に歯なんてあると思うの?」

 ほほ笑んだ顔には、ただポッカリと暗い穴。

 「歯がなきゃ、何も食べられない。食べなきゃ、生きてけないよ。」

 グラニュー糖に、バターを溶かして焦げ付かないように用心深く。
 好みでほんの少し、シェリー酒を垂らしてもいい。
 目的なんてないさ。
 部屋には甘い香り。

 「誰が生きてるなんて思ってたの?ばかね。今すぐよ。」



 僕はあの子が大好きで
 甘いものだけで世界は出来ててほしいと願ってて
 生きてるとか死んでるとか
 そんなの関係ないって思ってた。




 
 あの子は、笑うんだ。
 「とけたいの。」

 だから僕はあの子を抱きしめた。
 とけてしまえばいいと、
 そう思ったから。



 キッチンで。


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