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幻想夜話:15 [過去の創作ノートから]

この物語を書いたのは2007年の冬。まだいろいろ青臭い(笑)感受性が活発で、たくさん悩んだり迷ったりしていた頃のようです。読み返すと恥ずかしくもありますが、こんな痛々しい道を歩きながらみんな大人になっていくのかも知れません。・・・でも、何の苦痛も感じなくなるのが大人だなどと勘違いするのは怖いことですね。



朝、目覚めたら何もなかった。
誰もいなかった。
愕然とした。

・・・それは絶対に、僕のせいだから。



『何もかも、消えてしまえばいい。何もかも、いらない。』
そう願ったのは昨日の夜だった。街かどで出会った悪魔が言った。
「今夜の俺は機嫌がいい。お前のみじめ魂などいらないから、ただお前の願いだけを叶えてやろう。」と。

思うままにならない己の歩みと誤解だらけの現実に、
疲れて、疲れて、疲れていた僕は、考えもせずに言ったのだった。
「滅んでしまえばいい。こんな世界なんて。すべて、消えてしまえばいい。」

悪魔はニヤリと笑った。これは拾いものをしたと、小さく舌打ちした。
それからとびきりていねいにお辞儀をすると、夕闇の迫る街路樹の方へと姿を消した。
悪魔は、夜の闇の中で明日の準備に取りかかるのだろう。最上級の、悪意をこめて。

悪魔の消えた闇の中、それでも僕は家に帰って食事をし、
これまでの自分を振り返りながら顔をゆがませた。
あらゆる忌々しい過去が僕をあざ笑うかのように浮かんでは消えた。
それはまるで、悪魔の研ぐ爪の音のように不愉快で・・・。


どうして人はこんなに悲しいのだろう。
なぜ人は悲しくなければ生きられないのだろう。
トゲだらけの道を、なぜうそぶいてまで笑って歩くのだろう。
足は血に染まり
心は怒りに満ちているというのに。



僕は自分の中の苛立ちを消すために終焉を告げた。
スイッチを押すほどの気軽さで、僕は世界を滅ぼした。
そして悪魔は耳打ちする。
「何もかも、お前の望みどおりだ。うれしいだろう?しかし、何て虚しい世界がお前は望みだったことだろう。・・・俺は、まっぴらだね、こんなとこ。」


悪魔さえ立ち去った、何もなく、
どこでもない場所で僕は願いの最後の言葉を思い出して何度も泣いた。
自分の愚かさと、望みの中にあった狂気に立ちつくす。

「何でも叶うのなら、僕だけが永遠に生き続けられるようにしておくれよ。
まあ、叶えられっこないだろうけど。」


永遠の壁に閉じ込められて
僕は自分を呪縛してしまった。
永遠に。

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